大きな地震から、もう何日、何週間が経ったでしょうか。
家や街の様子は少しずつ片付いてきても、こころの中はまだ揺れが続いている――
そんな感覚を持っている方も多いのではないでしょうか。それは決しておかしなことではありません。今日は、地震のあとに起こりやすい「こころの変化」と、特にお子さんたちの様子について、少し丁寧にお話ししたいと思います。
揺れたのは大地だけではありません
大きな災害を経験すると、多くの人が心身に何らかの反応を示します。
・地震のことを繰り返し思い出してしまう
・物音や揺れに過敏になる、小さな揺れでも強い不安を感じる
・眠れない、悪夢を見る
・なんとなく元気が出ない、涙もろくなる
・逆に、何も感じないような、ぼんやりとした感覚がある
こうした反応は、危険な出来事に対してこころと体が示す、ごく自然な防御反応です。多くの場合、時間の経過とともに少しずつ和らいでいきます。ただ、こうした状態が長く続いたり、日常生活に大きな支障が出たりする場合は、専門家に相談することも大切な選択肢のひとつです。「気のせい」「甘え」ではなく、体調を崩すのと同じように、こころも手当てが必要になることがある、とご自身にもご家族にも伝えてあげてください。
回復のプロセスは、一直線ではありません
こころの回復は、階段を一段ずつ上るようにまっすぐ進むものではなく、行きつ戻りつしながら、少しずつ落ち着いていくものです。
「もう大丈夫だと思っていたのに、また不安になった」というとき、それは後退ではなく、回復の途中でよくある自然な波です。台風のニュースや余震、真夏の暑さといった新しいストレスが重なると、一時的に揺り戻しが来ることもあります。焦らず、「今日はしんどい日だったな」とそのまま受け止めてあげてください。
子どもたちのこころに、目を向けてください
大人以上に、子どもは自分の不調をうまく言葉にできません。「怖い」「不安だ」と言う代わりに、行動や体の変化としてサインを出すことが多いのです。年齢によって、その表れ方には特徴があります。
乳幼児期(0〜6歳ごろ)
言葉での表現がまだ難しい時期だからこそ、生活のリズムに変化が現れやすくなります。
・赤ちゃん返り(できていたことができなくなる、指しゃぶりが戻るなど)
・夜泣き、夜驚、おねしょの再発
・親から離れられなくなる、ひどく人見知りするようになる
・理由のわからないぐずり、癇癪が増える
・地震ごっこのように、災害の場面を繰り返し遊びで再現する
これらは「後戻りした」のではなく、こころが処理しきれないものを、行動で表現している状態です。叱ったり無理に自立を促したりせず、まずは安心できるスキンシップと、そばにいる時間を増やしてあげてください。
小学生(6〜12歳ごろ)
現実と自分との関係を理解し始める時期で、より具体的な不安や身体症状として現れやすくなります。
・頭痛、腹痛、吐き気など、検査では異常が見つからない体の不調
・学校に行きたがらない、登校しても集中できない
友達とのトラブルが増える、あるいは急におとなしくなる
・自分のせいで家族が困っている」といった、自分を責める発言
・集中力の低下、忘れ物の増加、成績の変化
・大きな音や揺れへの過敏な反応
この年代の子は、「大丈夫」と口では言いながら、実は無理をしていることが少なくありません。言葉だけでなく、表情、食欲、遊び方、友達関係の変化など、日々の小さな違いに目を向けてあげることが、いちばんの気づきにつながります。
中学生(12〜15歳ごろ)
自我が育ち、自分の感情を内側に抱え込みやすくなる時期です。表面的には落ち着いて見えても、内面では大きく揺れていることがあります。
・急激な感情の起伏、あるいは逆に感情を出さなくなる
・睡眠リズムの乱れ、昼夜逆転
・友人関係の急な変化、孤立
・「将来なんてどうでもいい」といった投げやりな発言
・過度な気丈さ(「自分は平気だから」と大人を気遣いすぎる)
・スマートフォンやSNSへの依存的な使い方の増加
中学生は「相談すること」自体を恥ずかしい、迷惑だと感じやすい年代です。無理に聞き出そうとせず、「いつでも話していいし、話さなくてもいい」という姿勢で、そばにいることを伝え続けることが助けになります。
見守るご家族へ ― 3つの心構え
1. 「変化」に気づくことが、いちばんの支援です
診断をつけたり、専門的な判断をしたりする必要はありません。「いつもと違うな」と気づくこと自体が、すでに大切な支援の第一歩です。気づいたら、まずは責めずに寄り添う。それで十分です。
2. 安心できる日常のリズムを、できる範囲で取り戻す
食事、睡眠、遊びや会話の時間など、当たり前だった日常のリズムは、子どものこころにとって大きな安全基地になります。避難生活や片付けで難しい状況でも、「同じ時間に同じ人と過ごす」といった小さな繰り返しが、安心感につながります。
3. 大人自身も、無理をしないでください
お子さんを支えるご家族自身も、被災された当事者です。自分の不調に気づかないまま頑張り続けてしまう方は少なくありません。大人が疲れ切ってしまうと、子どもはそれを敏感に感じ取り、余計に不安を抱え込んでしまいます。「自分もしんどい」と感じたら、それを認めることも、家族全体を守るために必要なことです。
こんなときは、専門家に相談してください
以下のような状態が2週間以上続く場合や、日常生活に大きな支障が出ている場合は、学校のスクールカウンセラー、地域の保健師、児童精神科など、専門の窓口に相談することをおすすめします。
・強い症状が長期間続き、改善の兆しが見えない
・自分を傷つけるような言動、極端な体重減少などがある
・家庭内だけでは対応が難しいと感じる
相談することは、決して特別なことでも、弱さの証明でもありません。専門家の力を借りることも、回復への大切な一歩です。
最後に
揺れはいつか収まっても、こころの片付けにはもう少し時間がかかります。それは自然なことです。
どうか、ご自身とご家族のこころにも、体と同じように優しく手当てをしてあげてください。焦らず、比べず、その日その日を、できる範囲で。それで十分だということを、忘れないでいてください。
この記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、医学的な診断に代わるものではありません。ご自身やご家族の心身の不調について気になることがある場合は、専門機関へのご相談をおすすめします。