防災コラム #情報

地球の平均自転速度の低下がもたらす大地震 その可能性を解説

2026/07/17

「地球の回転が遅くなると、大地震が増える」

そんな話を聞いたことがあるでしょうか。

それだけを聞くと、よくある地震予知の部類ですか?となりますよね。
1日の長さが数ミリ秒変わったところで、地面が揺れる理由にはならないように思えます。しかし、これは正式に学術誌に掲載された、れっきとした研究に基づく仮説です。

そして同時に、学術論文の検証に失敗した仮説でもあります。

今回は、この不思議な説を入り口に、「防災情報とどう向き合うか」を考えてみたいと思います。

◆そもそも「自転が遅くなる」とは◆

まず前提を整理します。ひとくちに「自転が遅くなる」と言っても、まったく性質の異なる3つの現象が混ざっていますので、そこから説明します。

① 月に引っ張られる、数億年の減速

 月との潮汐摩擦によって、地球の自転は少しずつ遅くなっています。そのペースは100年に約1.8ミリ秒。恐竜がいた時代の1日は、今より1時間近く短かったと考えられています。

壮大な話ですが、数億年スケールなので、私たちの防災とは関係ありません。

100年で1.8ミリ秒 = 1年で0.018ミリ秒
1秒 = 1000ミリ秒なので、
1000 ÷ 0.018 ≒ 約5万5556年
つまり 1日に1秒の誤差が生じるまで約5万6000年という計算になります。
ここで、注意しなくてはいけないのは、この計算が通用しないということです。
これはあくまで、約5万年の間同じペースで自転速度が維持された場合です。それは、過去のデータからありえないということになります。私たちが生きて研究している期間は、地球が誕生してからほんの地球史の 0.0000026%にすぎません。24時間に圧縮すれば、近代科学の400年はわずか 0.0076秒なんです。

② 氷が融けることによる減速

 氷床や氷河が融けると、極域の陸上にあった水の質量が海洋へと移動します。この質量の再配分により、地球の自転は遅くなります。

フィギュアスケーターが腕を広げると回転が遅くなる、あの原理と同じです。

こちらは現在進行形です。1日は100年あたり約1.33ミリ秒のペースで長くなっており、ウィーン大学とチューリッヒ工科大学の研究チームは、このペースが**少なくとも過去360万年間で前例のないほど急速**だと報告しています(『Journal of Geophysical Research: Solid Earth』掲載)。

③ 数十年周期の、気まぐれなゆらぎ

そして3つ目。地球の自転は、実は常に微妙に揺らいでいます。

 大気と固体地球が角運動量を交換しあっているためで、たとえば西風が強くなると自転がいくぶん遅くなる、といった具合です。数ミリ秒の変動は、地球にとって日常茶飯事なのです。

「大地震が増える」という仮説で扱われているのは、この③です。

◆問題の仮説──5年前に地球が教えてくれる?◆

 2017年、コロラド大学のロジャー・ビルハム氏とモンタナ大学のレベッカ・ベンディック氏が、『Geophysical Research Letters』に論文を発表しました。

 1900年以降のM7以上の地震をすべて調べたところ、過去100年で5回、年間発生数が25〜30%増加した時期があった。そしてその時期が、地球の平均自転速度の低下と一致していた。というものです。

増加期には年に25〜30回の大地震が発生し、それ以外の時期の平均は約15回。倍近い差です。

さらに驚くべきことに、自転の「角減速度」と全球的な地震活動の相関はより顕著で、地震活動に5〜6年先行するというのです。

ビルハム氏は当時、こう語っています。

「地球は5年先の地震について、私たちに前もって知らせてくれている」と。

◆なぜ、そんなことが起きるのか◆

提唱者らのメカニズムの説明は、こうです。

自転が遅くなると、地球はわずかに形を変えます。赤道方向で縮み、極方向に伸びる。その変形量は**12mm未満**。地球の直径が約1万3000kmであることを考えれば、無視できそうなほど微小です。

しかしベンディック氏は、こう説明します。

「すでに破壊寸前まで力が溜まった断層が多数あるところに、ごく小さな刺激が加わる。すると、それらが一斉に破壊状態へ移行し、地震のクラスター(群発)が生じる」

ドミノの列に、指先で軽く触れるようなイメージでしょうか。

影響は赤道付近でより大きく、北緯10度〜南緯30度の地域で最も顕著とされました。そこには約10億人が暮らしています。

◆そして、予測は外れた◆

ここからが本題です。

 この研究に基づき、2018年に大地震が急増するという予測が出されました。「来年は深刻な地震の増加が見られるはずだ」「年20回に達してもおかしくない」と。

メディアは飛びつきました。「2018年、10億人が危険に晒される」といった見出しが世界中を駆け巡りました。

結果は、2018年に大地震の急増は起きませんでした。唯一の実地検証は、成功しなかったのです。

◆提唱者自身が、報道を否定◆

興味深いのは、その後の展開です。

 ベンディック氏自身が、過熱報道を明確に否定しました。「壊滅的な地震の群れが襲う」という警告記事を読んだ人がいるかもしれないが、パニックにならないでほしい。そうした主張のほとんどが扇情的な誇張である。不安を与えたのなら「とても申し訳なく思う」と。

そして、こう釘を刺しています。

「特定の地震がこのパターンによって引き起こされるとは言っていない。気候科学者が、特定のハリケーンを気候変動のせいだとは言わないのと同じだ」と。

研究者の主張と、報道された内容の間には、大きな隔たりがあったわけです。

報道というものは、時代を遡っても誇張が大きく、紙面を賑わせ販売部数を稼ぐという性質を持っていることに留意する必要があることを、いつの時代も教えてくれます。

◆科学界の受け止め◆

では、この仮説は完全に否定されたのでしょうか。実は、そう単純でもありません。

 地質学者のピーター・モルナー氏は「彼らが見つけた相関は注目に値し、調査する価値がある」と評価しました。カリフォルニア大学バークレー校のマイケル・マンガ氏は「ナンセンスかもしれない」としつつ、「彼の相関は、私が普段見ているものよりずっと良い」と述べています。

つまり現状は、「否定はできないが、支持もされていない」という宙ぶらりんの状態です。相関は確かにある。しかし物理メカニズムは推測の域を出ず、予測は当たらなかった。

なお同じ研究の流れでは、2030年代に自転の減速がピークを迎え、地震・火山活動の増加につながる可能性を指摘する論文も出ています(『Frontiers in Earth Science』2022年)。

◆この話から、私たちが学べること◆

さて、この仮説をどう受け止めるべきでしょうか。

私は、「防災情報リテラシーの、格好の教材」だと考えています。

理由は3つあります。

1.相関と因果は違う。
 5回の一致は偶然でしょうか? 過去100年で5回というのは、統計的にはそれほど強い証拠にはなりません。偶然の一致である可能性を排除できません。

2.権威ある論文でも外れる。
 これは査読を経て学術誌に載った、正真正銘の科学論文です。それでも予測は外れました。「論文に書いてある」は「科学的に正しい」を意味するものではありません。

3.研究は歪んで伝わる。
 研究者は「増加の傾向が見られるかもしれない」と言った。報道は「10億人が危険」と伝えた。そして提唱者本人が「扇情的だ」と否定した。この構造は、あらゆる防災情報で起こりうることです。

◆「5年後の警告」より、確実なこと◆

最後に、大切なことをお伝えします。

 自転速度から大地震を予測できるかは、わかりません。
しかし、わからないことに頼らなくても、私たちにできることは山ほどあります。

日本に住んでいる限り、大地震はいつか必ず来ます。それは自転速度とは関係無く、動かしがたい事実です。
5年の猶予を期待するより、今日、家具を固定するほうが最優先事項であり、確実に自身の命を守れます。

- 寝室の家具を固定する
- 非常用の水と食料を備蓄する
- 家族の集合場所を決めておく
- ハザードマップで自宅のリスクを確認する

どれも、地球の自転が速かろうと遅かろうと、今やるべき最優先事項です。

 センセーショナルな「予知」の話題は、たしかに魅力的です。しかし防災の本質は、予知の当たり外れに一喜一憂することではなく、いつ来ても大丈夫なように備えておくことにあります。

地球は、5年前に大災害を警告してくれないかもしれない。

でも、5年前からの備えは裏切りません。

◆参考文献◆

- Bilham, R. & Bendick, R. (2017)『Geophysical Research Letters』
- 『Frontiers in Earth Science』(2022)
- 『Journal of Geophysical Research: Solid Earth』ウィーン大学/チューリッヒ工科大学
- The Washington Post、Science、Smithsonian Magazine 各誌の関連報道
- 北海道大学 宇宙測地学研究室 解説資料

※本コラムで紹介した「自転速度と地震の関連」は、検証されていない一つの仮説です。防災行動の根拠とはせず、科学トピックとしてお読みください。