「猛暑の年の後は大地震が来る」──夏になると必ず耳にする言葉です。SNSでは「今年は暑いから危ない」という書き込みが増え、家族から「本当なの?」と聞かれた方も多いのではないでしょうか。今日はこの通説を、感覚ではなく数字と科学で検証してみます。
よく引き合いに出される「一致例」
まず、通説の根拠として語られる代表的な事例を挙げてみます。
・1994年(記録的猛暑)→ 1995年1月 阪神・淡路大震災(M7.3・震度7)/猛暑から約5〜6か月後
・2010年(当時歴代最暑)→ 2011年3月 東日本大震災(M9.0・震度7)/約7〜8か月後
・2018年(埼玉県熊谷市で41.1℃)→ 2018年9月 北海道胆振東部地震(M6.7・震度7)/同年内
・2023年(観測史上最暑)→ 2024年1月 令和6年能登半島地震(M7.6・震度7)/約5〜6か月後
こう並べると、確かに「猛暑の年に大地震が起きている」と見えます。実際、SNSで話題になるのはこうした一致例です。
見落とされている「一致しなかった年」
しかし、防災を語るときに大事なのは反対側のデータです。「猛暑だったのに大地震が起きなかった年」を挙げてみます。
・2004年(観測史上有数の暑さ)── 震度7発生なし
・2007年(歴代最高気温更新)── 震度7発生なし
・2013年(高知県四万十市41.0℃)── 震度7発生なし
・2020年(浜松市41.1℃タイ)── 震度7発生なし
・2022年(過去2番目の暑さ)── 震度7発生なし
・2024年〜2025年(史上最暑を毎年更新)── 大地震複数だが「猛暑と関係」と言い切れる根拠なし
逆に、猛暑ではなかった年に大地震が起きた例もあります。1978年宮城県沖地震、2000年鳥取県西部地震などがそれに当たります。
つまり、猛暑年に大地震が「起きた例」と「起きなかった例」は、ほぼ同じくらいの頻度で存在しているのです。
人間の記憶の罠──確証バイアス
なぜ通説が広まるのでしょうか。心理学ではこれを「確証バイアス」と呼びます。人間の脳は、自分の信じている仮説に一致する情報を強く記憶し、一致しない情報を忘れる傾向があります。
「猛暑の年に大地震が起きた」この一致は劇的なので強く印象に残ります。一方、「猛暑だったけど大地震は起きなかった」年は、平穏無事だったがゆえに記憶に残らず、通説の反証データとして数えられません。
歴史的に見ても、江戸時代の易学者が関東大震災を「予言」したとされる話や、猛暑と地震の関係を説いた古文書は複数存在します。しかしそれらは、外れた予言を除外して当たった予言だけを後世に伝えた結果でもあります。
科学は「猛暑→地震」について何を言っているか
現在の地震学・気象学の主流の見解は明確です。気温と地震発生の間に、予測に使える因果関係は認められていません。気象庁も地震予知連絡会も、猛暑を地震の前兆として扱う公式見解を出していません。
ただし、近年の研究には興味深いものもあります。2025年3月、筑波大学と産業技術総合研究所の研究グループが、太陽熱による地表温度変化を予測モデルに組み込むと、浅い地震の予測精度がわずかに向上する可能性を発表しました(AIP Publishing『Chaos』誌)。これは「気温が原因で地震が起きる」という主張ではなく、「気温データを補助的な予測情報として使える可能性がある」という慎重な内容です。
物理的には、気温変化が岩盤の応力・間隙水圧・降雨や融雪によるプレート境界への圧力に微小な影響を与える可能性は指摘されています。しかしこれらは主要因ではなく、地震の発生を数か月単位で予測できる根拠にはなりません。
「関係ない」からこそ、備えは常に必要
ここまで読むと「じゃあ猛暑と地震は無関係だから安心」と思われるかもしれません。しかし話は逆です。
猛暑の年でも、そうでない年でも、日本では毎年必ず大きな地震が発生しています。過去の統計では、震度5弱以上の地震は年間平均6回、震度6強以上は3〜5年に1度、震度7クラスは10〜15年に1度のペースで発生しています。「猛暑だから危ない」のではなく、「日本に住んでいる限り常に危ない」というのが正確な現状認識です。
猛暑と大地震を考えた時に懸念されているのが、真夏に大地震が発生した場合の被害が特に深刻になる可能性があるということです。京都大学などの研究では、8月上旬の日中に大地震が発生した場合、都心のオフィス街で帰宅困難者の約半数が熱中症リスクの高い場所に長時間滞在せざるを得なくなるとのシミュレーション結果が出ています。真夏の大地震は、揺れそのものの被害に加えて、避難時の熱中症・脱水・停電による冷房喪失という「複合災害」になる可能性が、非常に高いというシミュレーション結果を公表しました。
だからこそ、猛暑期の備えとして次の4点を確認しておいてください。
・水は1人1日3リットル×3日分を確保(真夏は通常より多めが基本)
・停電時に冷房が使えない場合の対策(保冷剤・ハンディファン・涼しい避難所の把握)
・非常持ち出し袋に経口補水液・塩分タブレットを追加
・家族との連絡方法と、日中屋外で被災した場合の集合場所を再確認
当サイトの熱中症コーナー(暑さ指数WBGT)と地震速報LIVEを同じ画面で監視しているのは、まさにこの「複合災害への備え」を可能にするためです。
まとめ
「猛暑の後は大地震」──この通説は、科学的な因果関係は証明されていない、というのが結論です。
しかし、その否定は「安心してよい」という意味ではありません。むしろ「季節を選ばず、大地震はいつでも起こりうる」という現実を突きつけるものです。
俗説を根拠にして怖がるのではなく、データと備えを根拠にして冷静に構える。それが災害の時代を生きる私たちに求められている姿勢だと考えています。
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【出典・参考】
→ [気象庁「熱中症警戒アラート」|https://www.jma.go.jp/jma/kishou/know/kurashi/heat_stroke.html]
猛暑と防災の公式情報
→ [気象庁「地震予知について」|https://www.data.jma.go.jp/svd/eqev/data/faq/faq09.html]
地震予知の可能性と現状についての公式見解
→ [「震災時の帰宅行動と熱環境上のリスクに関する研究」|https://www.jstage.jst.go.jp/article/journalcpij/54/3/54_1066/_pdf]
真夏に大地震が発生した場合の帰宅困難者の熱中症リスク
→ [Heat from the sun affects seismic activity on Earth(AIP Publishing)|https://www.sciencedaily.com/releases/2025/03/250304113817.htm]
太陽熱と地震活動の相関に関する2025年の研究
※本記事は特定の予測を否定または肯定するものではなく、防災意識を高めるための情報提供を目的としています。