防災コラム #アーカイブ/情報

記録的猛暑が突きつける「環境への配慮」と「命の守り方」の狭間で―フランスの現状に学ぶ

2026/07/01

近年、ヨーロッパを襲う熱波はかつてない勢いを増しています。
特にフランスでは、記録的な猛暑により、例年を1,000人以上も上回る死者が報告されるなど、極めて深刻な事態に直面しています。なぜ、先進国であるフランスでこれほど多くの命が失われているのでしょうか。そこには、国民の「環境意識」と「住宅事情」という、非常に複雑な事情が絡み合っています。

・「エアコン=悪」という根強い意識
フランスにおけるエアコンの普及率は、わずか25%程度に留まっています。その背景にあるのは、多くのフランス人が抱いてきた「エアコンは過剰なエネルギーを消費し、環境に有害である」という強い信念です。気候変動への危機感から、冷房の使用を控えることが「地球を守るための美徳」として社会に根付いてきました。

しかし、現実はその意識を大きく裏切り始めています。記録的な猛暑は、かつての「我慢すれば乗り越えられる暑さ」を過去のものにしました。科学者や専門家からは、「現在のフランスの電力構成(原子力発電が主軸)であれば、エアコン使用による環境負荷は抑えられる」という指摘も出ており、環境への配慮と人命の優先順位について、今、まさに国を挙げての議論が巻き起こっています。

壁に阻まれた「命を守る設備」
さらに深刻なのが、物理的な設置の壁です。パリをはじめとするフランスの都市部には、築100年を超える歴史的な建物が多く残されています。これらは文化遺産として厳格に保護されており、外観を損なう「外壁への室外機設置」や「壁への穴あけ」が原則として禁止されているのです。

賃貸住宅においても、資産価値の低下を恐れるオーナー側の拒否感や、行政手続きの煩雑さがハードルとなり、個人が「命を守るため」にエアコンを導入しようとしても、極めて高い壁が存在するのが実情です。

警鐘:変革が求められる「命の防衛」
現在、フランスではショッピングモールや市庁舎が「避難所」として開放され、窓を閉め切って日差しを遮る「洞窟のような生活」が推奨されるなど、サバイバルに近い防衛策が取られています。しかし、断熱性の低い古いアパートで取り残された高齢者や弱者が犠牲になる状況は、もはや個人の努力だけで解決できる範囲を超えています。

この悲劇は、私たち日本にとっても決して他人事ではありません。「省エネ」は極めて重要な課題ですが、それが「命を危険にさらす」ことと直結しては本末転倒です。環境保全の精神を尊重しつつも、異常気象を前提とした住環境のアップデート(断熱化の推進や、環境負荷の低い空調設備の導入検討など)が、今まさに急務となっています。

「伝統や景観を守ること」と「命を守ること」を対立させるのではなく、新しい時代の防災・居住スタイルをどう構築していくか。フランスが直面しているこの難題は、気候変動時代を生きる私たち全員への切実なメッセージといえるでしょう。