静かに手を合わせる日
2018年(平成30年)7月
西日本を中心とする広い範囲を記録的な豪雨が襲いました。のちに「平成30年7月豪雨」と命名され、「西日本豪雨」として記憶されるこの災害は、平成に入って最悪の水害となりました。
特に7月7日は、多くの命が奪われた日として深く刻まれています。この日の未明、岡山県倉敷市真備町では小田川の堤防が決壊し、地区の約3割にあたるおよそ1,200ヘクタールが水に沈みました。
同じ朝、愛媛県では肱川が氾濫し、西予市野村町や大洲市の街が濁流にのまれました。前夜から続く豪雨で、広島県内では各地で土砂崩れが相次ぎ、救助を求める通報が鳴りやみませんでした。
この災害で亡くなられたすべての方々に、心より哀悼の意を捧げます。
そして今なお、大切な人、住み慣れた家、日常を失った悲しみとともに歩んでおられる方々に、お見舞いを申し上げます。
西日本豪雨とは何だったのか
被害の記録
平成30年7月豪雨は、6月28日から7月8日にかけて、停滞した梅雨前線と台風7号の影響で暖かく非常に湿った空気が日本付近に供給され続けたことで発生しました。総降水量は四国地方で1,800ミリ、東海地方で1,200ミリを超えた地点があり、7月の平年値の2〜4倍に達した地域もありました。九州北部から北海道まで、多くの観測地点で24時間・48時間・72時間降水量が観測史上1位を更新しました。
気象庁は最大級の警戒を呼びかける「大雨特別警報」を、7月6日から8日にかけて計1府10県(福岡・佐賀・長崎・岡山・広島・鳥取・兵庫・京都・岐阜・高知・愛媛)に発表。
これは特別警報の運用開始以来、最多でした。避難勧告・避難指示は最大で23府県、約863万人に発令されました。
その被害は、消防白書(平成30年11月時点)によれば、死者224名、行方不明者8名、負傷者459名。住家被害は全壊6,758棟、半壊10,878棟、床上浸水8,567棟、床下浸水21,913棟に及びました。
死者数は平成元年以降の風水害で最多であり、1982年の長崎大水害以来の惨事となりました。この年の土砂災害発生件数は3,459件と、統計開始以降で最多を記録しています。
被害状況は地域ごとに異なりました。倉敷市真備町では堤防決壊による大規模浸水で61名が亡くなり、その多くが逃げ遅れた高齢者でした。広島県では安芸区や熊野町、坂町小屋浦などで土砂災害が集中し、夜間に発生した土石流が住宅街を襲いました。109名が亡くなりました。愛媛県では、満水に近づいたダムの緊急放流と河川の氾濫が重なり、下流の集落で急激な水位上昇が起きました。29名が亡くなりました。
残された課題
「情報はあった。それでも逃げられなかった」
西日本豪雨が私たちに突きつけた最大の教訓は、「情報が出ていても、人は逃げるとは限らない」という現実でした。
特別警報も、避難勧告・避難指示も、多くの地域で発災前に出されていました。それでも被害は防げなかった。「自分の家は大丈夫だろう」「これまでも大丈夫だったから」という㊟¹正常性バイアスが、避難の一歩を鈍らせたことが、その後の検証で繰り返し指摘されています。
土砂災害で亡くなった方の約9割は、あらかじめ危険性が示されていた土砂災害警戒区域内などで被災していました。危険な場所は、ハザードマップで事前に示されていたのです。
この事実は、ハザードマップを「見たことがある」で終わらせず、自分の家・職場・通学路のリスクとして具体的に把握しておくことの重みを物語っています。
また、犠牲者には高齢者が多く、自力での避難が難しい人をどう守るかという課題も浮き彫りになりました。
夜間や早朝に危険が急激に高まるケースへの対応、ダム放流情報の住民への伝わり方、そして行政の情報を「わがこと」として受け取ってもらう伝え方。
この災害を契機に、2019年には避難情報を5段階で示す「警戒レベル」が導入されるなど制度は前進しましたが、気候変動により豪雨が激甚化・頻発化するなかで、いまだ課題が解消されたとは言えません。
近年の研究や気象機関の見解は、地球温暖化が豪雨の強度を底上げしていることを示しています。
「数十年に一度」とされた雨は、もはや毎年どこかで降る。西日本豪雨は過去の出来事ではなく、次の豪雨への警告として教訓とするべきなのです。
命を守る備えを、今日この日に
当サイトのツールをご活用ください
追悼とは、祈ることであると同時に、次の犠牲を出さないと誓うことでもあると、私たちは考えています。
8年前のあの日から学んだことを、具体的な備えに変えていただくために、当サイトでは以下のツールをご用意しています。この機会にぜひご確認ください。
緊急対応マニュアル
豪雨・洪水・土砂災害の兆候から、警戒レベルごとに「何をすべきか」を時系列で整理したマニュアルです。
避難タイミングの決め方、夜間豪雨時の判断基準、車避難の注意点などをまとめています。平時に一度通読し、家族で共有しておくことで、いざというときの迷いを減らせます。
→ [🚨 緊急対応マニュアルを開く|manual]
緊急ビーコン
ヘッダーの赤く光る「SOS」ボタンから開ける、緊急時専用の機能です。 瓦礫の下や暗い場所に閉じ込められたとき、電波が無くても音と光で居場所を知らせることができます。
音・光ビーコン:画面全体を国際救難信号「SOS」のパターン(・・・---・・・)で点滅させながら、大音量の高音アラームを鳴らします。通信圏外でも動きます。
サイレン:救急車のように2種類の高音を交互に鳴らし続ける連続警報音です。同じ音量でも人の耳に格段に気づかれやすく、近くの人に異変を知らせるのに向いています。
音のテスト:いざという時に確実に鳴るか、1秒だけ試せるボタンです。平常時に一度お試しください。
📞119・110へ発信:パネル内のボタンをタップすると、そのまま電話アプリで発信できます。
→ [🆘 緊急SOSビーコンを確認・設定する|sos]
その他 各種ツールをご確認ください。
→ [🏚 被害想定診断ツールを使う|https://mkms0822-ops.github.io/jishinhigaisouti/]
→ [📝 防災意識診断をやってみる|https://mkms0822-ops.github.io/anatano-bousai-shindan/]
→ [🗺 避難所マップを確認する|#section-map]
→ [📖 取扱説明書(ご利用ガイド)を開く|guide]
結びに
真備の町に、広島の山あいに、肱川のほとりに、あの日までは当たり前の暮らしがありました。
奪われた224名の尊い命、そして今も行方の分からない方々のことを、私たちは忘れません。
空を見上げ、雨音に耳を澄ませ、大切な人と避難の約束を交わす。その一つひとつの小さな行動が、亡くなられた方々への何よりの追悼になると信じています。
合掌。
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【出典・参考文献】
→ [気象庁「災害をもたらした気象事例:平成30年7月豪雨」|https://www.data.jma.go.jp/stats/data/bosai/report/2018/20180713/20180713.html]
気象状況の経過、総降水量、大雨特別警報の発表状況、被害数値(死者224名・行方不明者8名ほか)
→ [総務省消防庁「平成30年版 消防白書 特集1:平成30年7月豪雨の被害と対応」|https://www.fdma.go.jp/publication/hakusho/h30/topics1/38135.html]
住家被害(全壊6,758棟・半壊10,878棟・床上浸水8,567棟・床下浸水21,913棟)、平成元年以降最多の風水害死者数
→ [内閣府「令和元年版 防災白書:平成30年7月豪雨(西日本豪雨)災害」|https://www.bousai.go.jp/kaigirep/hakusho/h31/honbun/0b_1s_01_01.html]
災害救助法の適用状況、土砂災害発生件数(3,459件・統計開始以降最多)、政府の対応
→ [内閣府「避難に関するワーキンググループ 参考資料
避難情報の発令状況と住民の避難行動に関する検証
→ [国土交通省「平成30年7月豪雨災害の概要と被害の特徴
土砂災害による犠牲者の約9割が土砂災害警戒区域内等で被災したとの分析
内閣府・国交省の検証資料
https://www.bousai.go.jp/fusuigai/suigai_dosyaworking/pdf/sankosiryo1.pdf
https://www.mlit.go.jp/river/shinngikai_blog/dai01kai/dai01kai_siryou2-1.pdf
㊟¹正常性バイアス
「異常な事態に直面しても、脳が『これは大したことない』『自分は大丈夫』と自動的に思い込んでしまう心のクセ」のこと。
人間の脳は、日常の小さな変化にいちいち驚いて心が疲れてしまわないよう、多少の異変を「正常の範囲内」として処理する仕組みを持っています。
電車が5分遅れるたび、遠くでサイレンが鳴るたびにパニックになっていたら生活できませんよね。
つまり正常性バイアスは、平常時には心を守ってくれる正常な機能なんです。
しかし、最大の問題が、この機能が本物の危機のときにも働いてしまうことです。心を落ち着かせる「ブレーキ」が、逃げるべき場面で「アクセルを踏ませない」方向に作用してしまうのです。
「大雨警報なんて毎年出てるけど、何ともなかったし」
「隣の家もまだ避難してないから、うちも大丈夫だろう」
「川があふれるって言っても、この辺までは来ないでしょ」
という「危険を過小評価する方向に思考が歪められる」のです。
※被害数値は平成30年11月時点の消防庁集計に基づきます。本記事は上記公的機関の公表資料をもとに構成しています。