7月上旬の時点で、今年の台風発生数はすでに10個。平年のほぼ2倍のハイペースで、「気候変動で台風は増えて、強くなっているのでは」と感じた方も多いはずです。
そこで今回は、この直感をデータで確かめました。比較したのは、直近10年(2016〜2025年)と、ちょうど50年前の10年(1971〜1980年)。
気象庁の台風経路図・統計資料とデジタル台風(国立情報学研究所)から、日本に接近・上陸したすべての台風を集計しています。
検証①:日本に来る台風の「数」
1971-80年 2016-25年
接近数の平均 9.6個/年 11.3個/年
上陸数の平均 2.4個/年 3.2個/年
接近数は年ごとに4〜16個と大きくばらつき、平年値(11.7個)を挟んで上下しているのが実態です。50年でわずかに増えて見えますが、この振れ幅の中では傾向とは言えません。
「数は増えていない」これが1つ目の事実です。
検証②:上陸した台風の「強さ」
本題はこちらです。
両年代の全上陸台風(1971-80年:24個、2016-25年:32個)について、上陸時の中心気圧を比べました。
1971-80年 2016-25年
上陸時気圧の平均 974.2hPa 977.7hPa
最強の上陸 940hPa 940hPa
960hPa以下の割合 29% 25%
驚くべきことに、ほぼ同じです。
最強の上陸は、1971年台風23号(鹿児島・大隅半島、940hPa)と2022年台風14号ナンマドル(鹿児島市付近、940hPa)で、値まで一致。しかもこの940hPaは統計史上5位タイで、上位には第二室戸台風(1961年・925hPa)、伊勢湾台風(1959年・929hPa)が並びます。上陸時の勢力に関する限り、「昔より強くなった」とは言えないのです。
じゃあ、何も変わっていないのか?
いいえ。データを丁寧に見ると、確実に変わったものが3つあります。
1つ目は、海。
日本近海の海面水温はこの100年で1℃以上上昇しました。台風のエネルギー源そのものが底上げされた状態が続いています。
2つ目は、雨。
気温が1℃上がると大気が含める水蒸気は約7%増えます。同じ勢力の台風でも、運んでくる雨は50年前より確実に多い。実際、全国の「滝のような雨」(1時間50mm以上)の観測回数は、統計のある1976年以降、明瞭な増加傾向にあります。台風の怖さの主役が、風から水害へ移りつつあるのです。
3つ目は、変わり方の「これから」。
気象研究の将来予測が一致して示すのは「発生数は増えないか減る一方、強い台風の割合が増える」という未来です。つまり今回の比較で差が出なかったのは「もう変わらない」ことの証明ではなく、変化がこれから本格化する前段階にいる、と読むべきです。近年、猛烈な勢力の生涯ピークを保ったまま北上する事例や、上陸直前まで衰えない事例(2018年チェービー、2019年ハギビス、2022年ナンマドル)が立て続けに起きたことは、その予兆として警戒されています。
50年前のデータが教える、もう1つのこと
実は1971〜1980年の集計で最も目を引くのは、920hPa以下の猛烈な台風が10年のうち9年、日本の300km圏内に入っていたことです(2016-25年は8年)。1979年の台風20号チップに至っては、世界観測史上最低の870hPaを記録したのち、和歌山県に上陸しました。
つまり「最強クラスの台風がほぼ毎年、日本のすぐそばまで来る」のは、気候変動以前からのこの国の宿命です。親の世代も、私たちも、その点では同じ土俵に立っている——だからこそ備えは「今年は当たり年かどうか」で増減させるものではありません。
備えは「台風が来る前の晴れた日」に
・ハザードマップは「洪水」「土砂災害」「高潮」の3種類を確認(風より水、が現代の合言葉です)
・停電対策(モバイルバッテリー・ポータブル電源・懐中電灯)
・飛ばされやすい物の固定は風が強まる前に
・非常用持ち出し袋と、家族との連絡手段の確認
今年の台風シーズンの本番は8〜9月。海面水温が1年で最も高くなる時期に、すでに高い「下地」ができています。当サイトでは台風・気象警報を随時お伝えしています。
最新の進路・勢力は必ず気象庁の台風情報でご確認ください。
(接近数・上陸数は気象庁「台風の統計資料」、上陸時の中心気圧は気象庁「台風の順位」およびデジタル台風「台風上陸・通過データベース」=気象年鑑・気象庁ベストトラック等の当時資料に基づく値、生涯最低気圧はデジタル台風による。1970年代は航空機による直接観測、1987年以降は衛星推定が主体のため、生涯最低気圧の年代間比較には観測手法の差が影響します。2026年はシーズン途中のため集計から除外。)