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中心気圧920hPa「猛烈な」台風9号が教えてくれること ― 過去の教訓と、これから来る"巨大台風"時代への備え

2026/07/04

いま南の海上で何が起きているのか。
7月4日(土)18時現在、トラック諸島近海を台風9号(バービー)が西へ時速10kmで進んでいます。
注目すべきはその勢力です。

中心気圧:920hPa
最大風速:55m/s(中心付近)
最大瞬間風速:75m/s
強さ階級:猛烈な
大きさ:--

「猛烈な」という階級は、気象庁が台風の強さを表す表現の中で最上位にあたります。日本のはるか南で発生したこの台風が今後どの進路をとるかはまだ分かりませんが、この機会に「猛烈な台風とは何か」「過去にどんな被害が起きたのか」「これからの時代に何が待っているのか」を整理しておきましょう。

台風の基礎知識
「猛烈な」「大きさ--」の意味を正しく読む

気象庁は強さの階級を「最大風速」を3段階に区分して決めています。
階級=最大風速
強い:33m/s以上 44m/s未満
非常に強い:44m/s以上 54m/s未満
猛烈な:54m/s以上
台風9号の最大風速55m/sは、この最上位の「猛烈な」に該当します。
風速55m/sとは、走行中のトラックが横転し、住宅が倒壊するおそれのあるレベルです。
最大瞬間風速75m/sに至っては、多くの樹木が根こそぎ倒れ、電柱が折れ、鉄骨構造物すら変形する可能性があるほどの破壊エネルギーを持っています。

「大きさ階級 --」とは?

 台風情報で大きさ欄に「--」と表示されることがあります。これは「表示すべき階級がない」という意味で、強風域(風速15m/s以上)の半径が500km未満の場合に使われます。つまり台風9号は、勢力は最強クラスだが半径サイズは500km未満とコンパクトな台風ということがわかります。
 しかし、ここに落とし穴があります。
 小型で猛烈な台風は、中心付近に暴風のエネルギーが凝縮されているため、「さっきまで大したことなかったのに、急激に暴風になった」という事態が起こりやすいのです。
 一般的な規模(「強い」レベル)の台風は、風速15m/s以上の強風で台風が近づいていることを実感できます。
そして、徐々に風が強くなり、暴風になるという流れです。
強風から暴風になるまでの時間は早くて約1日、長くても1日半程度です。

念のため計算しておきます。
例 970hpa 強風域から中心まで800km 暴風域200km 時速20km/h の場合。

1.強風域の端から暴風域の端までの距離:800km-200km=600km
2.移動速度が時速が20km/hなので:600km÷20km/h=30時間

強風域に入ってから暴風になるまで約30時間という結果になりました。

㊟台風は完全な円形ではない場合がほどんどです。楕円形であったり、尾を引いた形の台風がほどんどです。
この計算はすべての台風に当てはまるものではありません。一例として計算しました。ご注意ください。

しかし、「猛烈な」レベルで大きさが「--」の場合、強風域がほとんど存在しないことから、強風から暴風のピークまでの時間が極端に短く、避難のタイミングを逃しやすいというリスクがあります。
非常に危険ということがご理解いただけましたでしょうか。

中心気圧920hPaの意味

 平均的な台風の中心気圧が950~980hPa程度であるのに対し、920hPaは歴代の大災害級台風に匹敵する数値です。
気圧が低いほど周囲との気圧差が大きくなり、風が強まるだけでなく、海面が吸い上げられて高潮のリスクも跳ね上がります。目安として、気圧が1hPa下がるごとに海面は約1cm上昇します。

過去の台風被害事例

教訓1
高潮が奪った5,000人超の命

伊勢湾台風(1959年)
 皆さんは一度は伊勢湾台風という名前を耳にしたことがあるのではないでしょうか。
上陸時の中心気圧が929hPaという「猛烈な」台風でした。
伊勢湾沿岸で観測史上最大級の高潮(名古屋港で約3.9m)が発生し、死者・行方不明者は5,000人を超えました。
犠牲者の多くはゼロメートル地帯の浸水によるものでした。この災害を機に「災害対策基本法」が制定されたという歴史があり、日本の防災行政の原点となった大規模災害でした。

教訓2
台風の怖さは風だけではない 低地・沿岸部では「高潮」が最大の脅威
上陸時気圧の歴代記録

室戸台風
 上陸時の気圧が911.6hPaという観測史上最低記録を持ち、大阪を中心に約3,000人の犠牲者を出しました。特に学校の倒壊で多くの児童が亡くなりました。

枕崎台風
 上陸時の気圧が916.1hPaの枕崎台風は終戦直後の混乱期に襲来し、広島県を中心に土砂災害で3,700人超の尊い命がが犠牲となりました。

教訓3
920hPa級の台風が上陸すれば、建物の倒壊・土砂災害が広域で同時多発
現代都市を襲った暴風と高潮

台風21号(2018年)
 「非常に強い」勢力で徳島・兵庫に上陸。関西空港が高潮で冠水し、連絡橋にタンカーが衝突、空港が孤立しました。大阪では最大瞬間風速58.1m/sを観測し、トラックの横転、屋根の飛散、大規模停電が発生。現代のインフラも猛烈な風の前では無力でした。

教訓4
コンパクト台風の破壊力

令和元年房総半島台風(台風15号・2019年)
 まさに今回の台風9号と同じ「小型で強い」タイプの台風でした。
 千葉市で最大瞬間風速57.5m/sを記録し、送電塔や電柱が多数倒壊。最大約93万戸が停電し、完全復旧まで2週間以上を要しました。9月の残暑の中、電気も水も使えない生活が長期化し、停電関連の熱中症被害も発生しました。

教訓5
小型台風は油断を生む 現代災害の「停電・断水の長期化」という課題
広域豪雨と河川氾濫

令和元年東日本台風(台風19号・2019年)
 この台風は、強風よりも記録的な大雨が主役となり、東日本の広範囲で140か所以上の堤防が決壊。
死者は100人を超えました。「台風=風」という思い込みを捨て、豪雨・河川氾濫情報へも同じ重みで注意を払う必要があります。

近い将来やってくる「巨大勢力の台風」とは
スーパー台風が"日本に上陸する"時代へ

 米軍合同台風警報センター(JTWC)の基準では、最大風速がおおむね67m/s(130ノット)以上の台風を「スーパータイフーン」と呼びます。
これまでスーパー台風級の勢力の台風は、フィリピン近海など低緯度で観測されることがほとんどで、日本に近づく頃には海水温の低下で衰弱するというプロセスを経る台風が通例でした。
しかし、その前提が崩れつつあります。

温暖化が変える台風の「質」
近年の研究や気象庁・IPCCの報告

地球温暖化の進行に伴い次の変化が指摘されています。

1.強い台風の割合が増える
 台風の総数は変わらないか、または減る一方。「非常に強い」「猛烈な」クラスの比率が増加する。

2.勢力のピークが北上する
 日本近海の海面水温の上昇により、台風が衰えないまま、あるいは発達しながら本州に接近するケースが増える。実際、2010年代以降、勢力をほぼ落とさず上陸する台風が目立っています。

3.雨量が増える
 海水が暖かいほど水蒸気が増え大気の水分量が増えます。これが台風の雨量を増やす原因です。
雨は1割以上増加するとの試算。

4.速度が遅くなる傾向
 移動速度が落ちれば、暴風や豪雨に晒される時間が長くなり、被害が更に増す。
つまり将来の日本は、「伊勢湾台風級(920hPa級)が、勢力を保ったまま都市圏に上陸する」というシナリオを現実の想定として備えなければならない、ということです。

 研究機関のシミュレーションでは、スーパー台風が東京湾を直撃した場合、東京湾の形状が影響して伊勢湾台風を上回る高潮が発生する試算となっています。湾岸低地の広範囲が浸水する可能性が指摘されています。

今日からできる備え
チェックリスト

 台風9号がこのまま日本に来るかどうかにかかわらず、台風シーズンはこれから本番です。
以下を確認しておきましょう。

情報編
1.気象庁の台風情報は「5日先までの進路予報」まで確認

2.自治体のハザードマップで「洪水」「高潮」「土砂災害」の3種類を確認(風水害はマップが分かれています)

3.警戒レベル4「避難指示」が出たら全員避難、レベル3で高齢者等は避難開始

住まい編
1.雨どい・側溝の掃除、屋根や外壁の点検は台風が来る前に

2.飛ばされそうな物(植木鉢、物干し竿、自転車)は屋内へ または飛ばないようにロープなどで頑丈に縛る

3.窓ガラスの飛散対策(飛散防止フィルム、カーテンを閉める)

生活編
1.停電への備え
モバイルバッテリー・懐中電灯・カセットコンロを常備(房総半島台風の教訓:停電は2週間続くこともある)

2.飲料水・食料
最低3日分、できれば1週間分

3.生活用水
断水前に浴槽へ水を貯める

避難編
1.避難先は「避難所」だけでなく、安全な親戚・知人宅、ホテルも選択肢に

2.現在地からの避難が必要か、自宅上階への「垂直避難」で足りるか をハザードマップで事前に判断

3.小型で猛烈な台風は天候の急変が早い。「まだ大丈夫」の感覚を捨てよ!

おわりに
 中心気圧920hPa、最大瞬間風速75m/s。台風9号の数字は、伊勢湾台風や室戸台風といった歴史的災害級の台風が、決して過去の話ではないことを私たちに突きつけています。そして温暖化が進む現代において、近い将来、この規模の台風が勢力を保ったまま日本を直撃する確率は年々高まってきています。

 防災は「台風が来てから」では間に合いません。
台風がまだ南の海上にある今こそ、備えを見直す最良のタイミングです。

 備え方が分からない方は、当サイトのメニューにある防災診断・防災クイズ(防災診断は簡易版)を実施してください。クイズは任意です。
更に詳しい診断が必要な方は診断の最後にさらに詳しく診断できる備蓄・避難袋診断ツールのボタンがあります。
是非ご活用ください。

(本コラムの台風9号の情報は7月4日15時時点のものです。最新の進路・勢力は必ず気象庁の台風情報でご確認ください。また、教訓で掲載した情報は気象庁などの公的資料を参考に作成しました。)