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水難事故の犠牲者は、なぜ「男の子」に偏るのか──理由を知れば、守り方が変わる

2026/07/10

夏休みを前に、どうしても伝えておきたいデータがあります。
子どもの水難事故の犠牲者は、男女で同じではありません。河川財団が警察庁データを分析した資料によると、子どもの水難による死者・行方不明者は約8割が男の子。この偏りは毎年ほぼ変わらず、しかも水難事故全体は近年増加傾向で、昨年(令和6年)は発生件数・水難者数とも過去10年で最多を記録しました。今日は「なぜ男の子なのか」と「だからどう守るか」の話です。

理由①:遊び方が「水の危険」と正面衝突する

子どもの水難で最も多い現場は川です(中学生以下の死者・行方不明者の57%が河川)。そして年齢によって事故の型が違います。

幼児・小学生
水際で遊んでいた際の転落や、浅瀬から一歩踏み込んだ先の「深み」。
中学生以上
増水した川での遊びや、滝・堰への飛び込みといった冒険型。

 高い所から飛ぶ、流れの速い所へ行く、より深くへ潜る──男の子の遊びは「限界を試す」方向に伸びやすく、それはまさに川の危険そのものです。川は見た目が穏やかでも、一歩先で急に深くなり、水面下の流れは表面より速いことがあります。遊びの本能と川の構造が、最悪の形で噛み合ってしまいます。

理由②:仲間の前では、引き返せない

 男の子の事故は、単独よりもグループで起きやすいという特徴があります。友達の前での度胸試し、「お前も飛べよ」の一言、先に行った子を追いかける心理。ひとりなら引き返せた場面でも、仲間の視線があると「やめる」という選択のハードルが跳ね上がります。

 さらに深刻なのは、連鎖です。子どもの水難は一度に複数人が溺れることが多く、友達が溺れたのを助けようとして自分も溺れる事故が後を絶ちません。勇敢さが、二重の悲劇を生んでしまうのです。これも「仲間を見捨てない」という目前の問題に対してダイレクトに反応する男の子の心理なのです。

理由③:自信と実力の差

「泳げるから大丈夫」。この言葉が、いちばん危険です。プールで泳げることと、流れ・水温・深みのある自然の水で泳げることはまったく別物です。男の子は自分の運動能力を高めに見積もる傾向があり、その自信が「ライフジャケットなんていらない」「あそこまで行ける」という判断を生みます。溺れた人のうち約半数が命を落とすという水難事故の恐ろしさは、自信だけではカバーできません。

対策:叱るのではなく、設計する

 ここまで読んで、「うちの息子に川遊び禁止と言わなきゃ」と思った方、少し待ってください。禁止は破られます。特に冒険心の強い子ほど。必要なのは禁止ではなく、冒険を安全側に設計することです。

安全設計 4つの鉄則
・ライフジャケットを「装備」にする。「浮き輪は子どもっぽいけど、ライフジャケットは川のプロの装備」。釣り師もカヌーイストも着けています。かっこよさの方向を変えてあげてください。
・「3つの約束」を指切りではなく理由ごと教える。①子どもだけで川に行かない、②流された物は絶対に追わない(物より命、拾うのは大人の仕事)、③前日や上流で雨が降ったら中止(増水は下流に遅れて届く)。
・「浮いて待て」を練習しておく。溺れたら泳ぐのではなく、仰向けで浮いて救助を待つ。あわせて、友達が溺れたら「飛び込まず、浮く物を投げて、大人を呼ぶ」。助けに行かないことが本当の勇気だと、はっきり言葉にして伝えてください。
・大人の立ち位置は子どもより下流。万一流されたときに受け止められる位置取りです。見守りは「スマホを見ながら」では成立しません。

最後に:8割という数字の意味

 男の子の冒険心は、責めるべきものではありません。それは成長の原動力そのものです。ただ、水は陸上とルールが違う場所で、その違いを教えられるのは周りの大人だけです。「男の子だから多少の無茶はするもの」という見守る側の油断も、8割という数字を作っているのかもしれません。

 この夏、川へ行く前に、この記事の「3つの約束」を親子で確認してもらえたら幸いです。
冒険は、生きて帰ってきてこそ、次の冒険につながります。
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【注釈】
 米国の2023年の非意図的な溺死率は男性が10万人あたり約2人、女性が約0.6人で、男性はあらゆる年齢層で溺れやすく、若年層でその差が最も広がっていました。この差は米国に限らず各国で共通しており、心理学・脳神経学の観点から次のような要因が指摘されています。
American Institute for Boys and Men

 リスクテイキング行動の性差
 研究では、男性は水辺への接触頻度、リスクを取る行動、飲酒のいずれもリスクが高く、自分の能力の過大評価と多量飲酒の相互作用が高い溺死率に寄与していると結論づけられています。子どもを対象とした研究でも、男児は自己申告・シミュレーション課題のいずれでもより危険な行動を示し、溺れかけた経験の割合も女児より高いことが確認されています。興味深いことに、この研究では安全知識や危険認識には男女差がなかったとされ、「知っているかどうか」ではなく「どう行動するか」に差が出ることが示唆されています。
PubMed + 2

脳の発達的な背景
 思春期には、「やりたい」「楽しい」と感じる報酬系や、感情を強く感じる扁桃体はすでに大人並みに発達している一方、それらをコントロールする前頭前野はまだ発達の途中にあるとされます。これはアクセルは大人並みに強力なのに、ブレーキがまだ発展途上という状態にたとえられます。行動科学の総説でも、男性のほうがリスクを取りやすいというのが一致した見解で、若い男子ほどリスク行動に走りやすく、その一因として仲間からリスク行動を促されやすいことが挙げられています。
Kodomo-plus + 2

 勇気や度胸を示したいという心理、能力の過大評価、そして衝動を抑える脳機能の発達途上という複数の要因が重なって、男の子・男性の水の事故が多くなると考えられています。「うちの子は大丈夫」ではなく、性差の傾向を知ったうえで、大人の付き添いやライフジャケットの着用といった環境面の備えを徹底することが大切です。

 男児・男性をピックアップして記載しましたが、女児・女性も水難事故に遭われる方が毎年一定数報告されています。男女問わず、夏の水遊びの際は、保護者の付き添い、ライフジャケットの装着など 対策を講じて夏の水遊びを楽しみましょう。

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【出典・参考】

→ [警察庁「令和6年における水難の概況」(PDF)|https://www.npa.go.jp/news/release/2025/r06_suinan_gaikyou.pdf]
水難発生状況(令和6年は過去10年で最多)、死者・行方不明者816人(うち子ども28人)、場所別・行為別の分析

→ [こども家庭庁「水の危険は近くにあります、みんなで危険回避!」|https://www.cfa.go.jp/policies/child-safety-actions/cases/dekisui]
中学生以下の水難死者・行方不明者の57%が河川での事故(令和元年〜5年)

→ [河川財団「水難事故防止に向けて(水辺の安全)」(PDF)|https://www.kasen.or.jp/Portals/0/pdf_mizube/suinanjiko2025.pdf]
子どもの水難の男女比・場所・行為の長期分析、川の危険の構造
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